ベトナム人の名前を徹底解説

今回はベトナムにおけるマジョリティー、キン族の名前についてディープに掘り下げてみましょう。

名前のつくり

ベトナム人の名前のつくりは、以下のような構造を持っています。

名前を構成する語数に決まりはありませんが、姓・ミドルネーム・名ともに1語から成る、全体で3語の名前が最も一般的です。

たとえば、私の知り合いの女性でNguyễn Thị Hươngという名前の方がいますが、この場合姓はNguyễn、ミドルネームはThị、名はHương という具合です。

ベトナムは東南アジア地域で唯一漢字文化圏に属し、ベトナム語の語彙のうち、漢字起源のものが7割を占めています。
名前もその例外ではなく、ほとんどが漢字を当てることが可能ですが、全てが漢字起源である訳ではなく中には固有語起源の名前も存在しています。

姓は1語もしくは2語からなり、儒教社会の影響から、通常は父親の姓を継承します。
父と母双方の姓を並べて姓とすることもあり、この場合2語になります。
姓はミドルネームや名と違い、性別を識別するはたらきを有しません。

ミドルネーム

この語をベトナム語では「間に挿入する名前」という意味でtên đệm といい、名前の一部と見なします。
庶民の間では、男性であればvăn <文>、女性であればthị <氏>が最も一般的です。
一族の中の同世代(兄弟やいとこ)が同じ文字にそろえたり、名門の家柄では、ゾンホ( dòng họ )と呼ばれる父系親族集団の識別語として位置づけられることもあります。
なお、そのような識別語として用いられることに加え、ミドルネームがない場合もあるので、この語を一概にミドルネームと呼ぶことは厳密には誤りであると言えます。

名は1語もしくは2語からなります。
ミドルネームと同じく、
男女によって用いられる語に傾向差が見られます。

姓の種類

日本人の苗字は10万種を超えると言われていますが、ベトナムのそれは約200~250種類程度です。
その中で最も多い姓はNguyễn <阮>です。
これは中部の都市フエを中心に栄えた王朝、「阮朝」の名に起因していると言われています。

姓の種類は少なくても、Nguyễn <阮>を姓とする人口の数で見れば、なんと世界で5位以内に入る数になるそうです。(ちなみに一位の姓はLee だそうです)

以下はベトナム人の代表的な姓とその割合です。

漢語カタカナ読み割合
Nguyễnグエン38.4%
Trầnチャン11%
レー9.5%
Phạmファム7.1%
Hoàng / Huỳnhホアン/フイン5.1%
Phanファン4.5%
Vũ / Võヴー/ヴォー3.9%
Đặngダン2.1%
Bùiブイ2%
Đỗドー1.4%
Hồホー1.3%
Ngôゴー1.3%
Dươngズオン1%
リー0.5%
Kimキム0.3%
Wikipedia : Họ người Việt より

ベトナム人の呼び方

ベトナム語で人を呼ぶときは、目上・目下の関係なく、総じて名で呼びます
たとえば、Khổng Minh Sơnという名前の人物であれば名はSơn なので、Sơn ơi ! (ơi は呼びかけを強調する語気詞)や、人称代詞を前置してAnh Sơn ơi !のように呼びます。

姓で呼ぶ場合は極めて稀で、たとえばベトナム建国の父ホー・チ・ミンを人々が敬って、「ホーおじさん」や「ホー主席」と呼ぶように、かなりの敬意と畏怖を込めた表現になります。

このように名で呼ぶことになった背景には、姓の種類が少ないために同じ姓の人々がコミュニティー内で重複し、姓だけでは誰が呼ばれたのか分からないためです。
同様の理由で、ミドルネームで呼ぶこともまずありません。

男の名前・女の名前

日本語に男女で使われる漢字に傾向があるように、ベトナムにおいても同様な使い分けがあります。
ここでは姓・ミドルネーム・名の三つに分けて見てみましょう。

すでに触れましたが、儒教思想の影響で子は父の姓を受け継ぎます。
父系のつながりは非常に重視され、男女とも結婚しても継承した姓が変わることはありません。
例外として、貧困家庭からやむを得ず養子に出る場合などに、養子先の姓に変えることがありますが、
「姓は簡単に変えるものではない」という良俗的な通念から、養子縁組は通常同じ父系の同じ姓をもつ親族間でしか行うべきではないとされています。

ミドルネーム

庶民の間では、男性であればvăn<文>、thị<氏>が、もっとも多数派のミドルネームです。

先に述べたように、儒教思想上由緒ある名門の家柄では、ゾンホ( dòng họ )と呼ばれる父系親族集団の識別語として位置づけられ、男性は代々同じ字を継ぐという伝統があります。

ただし、近年では庶民・名門問わず、これらのミドルネームの慣習は時代遅れだとする風潮があり、特に女性のthị <氏>を避けたり、母方の姓をミドルネームにする場合もあるようです。

私の知り合いの家族では、父の名前がKhổng Minh Sơn、母の名前がPhạm Thị Thúyで、Khổng Phạm Thúy Vi という名前の娘がいるのですが、これは母の姓であるPhạm をミドルネームにした例で、名は2語なので、全体で4語の名前になります。

名における男女間の語の使い分けは、私たち日本人なら、漢字を見れば直観的に理解できるものが多いと言えます。

下記はそれらの使い分けのほんの一例です。

男性に多く使われる名前
Hùng
Phúc
Minh
女性に多く使われる名前
Diệu
Dung
Hạ
Hằng
Huệ
Hoa花/華
Liên
Thu
Thục
ほぼ男性に使われ、まれに女性に使われる名前
Hải
Nguyên
Quang
Thành
ほぼ女性に使われ、まれに男性に使われる名前
Cục
Diệp
Ngọc
Mai
Mỹ
男女ともに同頻度に使われる名前
Anh
Hòa
Khải
Phương方/芳
tân
Văn
Khánh

どうでしょう?
なんとなくわかる気がしませんか?

さいごに

こうして概観してみると、確かに漢字文化圏であり儒教思想の色が強いとは言っても、漢字起源でない語を名付けに用いたり、母方の姓をミドルネームにしたりと、かなり自由な名前のあり方が見られるようになっているようです。

共産党一党支配の社会主義国としては、かなり柔軟な国際社会へのアプローチが見られるベトナムは、それが良いか悪いかは別として、名づけと言う面でも自由な発想が生まれているのかもしれません。

あまりに奇想天外な名前をつけることは、どこの国でも一般論として好まれないようですが、いち外国人として、ベトナムの人々の名前の変化を追うのも楽しいものです。

この記事は「ふむふむベトナム」の許可を得て一部加筆修正し転載しています。